2021年01月09日

ストロング系チューハイに「薬物」としての対策が必要なワケ

私は大麻や覚醒剤などの薬物依存の治療を専門としていますが、少し前から、薬物依存から抜け出すために頑張っている患者さんが、薬物の代わりにアルコール度数が9%以上の「ストロング系チューハイ」に手を出して失敗するケースによく当たるようになりました。

 薬を我慢している代わりにせめて酒でも、と従来のチューハイやビールのつもりで手を出したら前後不覚になるまで酔っぱらい、薬の売人に連絡したり、路上で寝たりしてしまうのです。アルコール依存の専門家からも、ストロング系チューハイで変な酔い方をする人が増えているという声が上がっています。

ストロング系チューハイはジュース感覚で飲めてしまう 
 特に危惧しているのは、ストロング系チューハイが若者の間で広まっていることです。今は、ビールや日本酒の味が苦手な若者が多いですが、ストロング系チューハイは、人工甘味料の影響でお酒の味がほとんどしないため、ジュース感覚で飲めてしまう。

 精神科の臨床現場には、お酒が飲みたいわけではないのに辛い気持ちを紛らわすための「薬」として飲んで、気づいたらリストカットをしていたという患者もやって来ます。

 厚生労働省による多量飲酒者の定義は、「平均一日当たり日本酒に換算して3合以上消費する者」ですが、9%のストロング系チューハイを500mL缶で2本飲むと、日本酒換算で4合近い量になります。しかも甘い味のせいで、日本酒よりずっと早いスピードで飲むことができる。

 私の臨床経験では、500mL缶を3本飲むと自分を失って暴れる人が少なくありませんが、そもそもアルコールは、大麻や覚醒剤といった違法薬物と比べても、酩酊時に暴力を誘発する力が強い。喧嘩による傷害事件では、加害者の半数〜7割近くが犯行時に飲酒している一方、被害者の側も4割が飲酒していたというデータがあります。酔っているから暴力を振るうし、酔っているから自分を守れない。

 DVや児童虐待の加害者が、酒の問題を抱えているケースも少なくありませんし、自傷に向かうケースもある。働き盛りの男性が自殺する直前に飲酒していることも多いです。内臓の損傷や脳の萎縮も、アルコール依存症患者のほうが、違法薬物の依存症患者よりひどいのです。

こうしたモンスターのような酒が出てきてしまった理由の1つは、日本の税制度にあります。北欧などでは、アルコール度数に比例して税率を上げていますが、その理由は、アルコール度数の高い酒のほうが健康被害を招きやすいからです。

 つまり酒税率を上げることによって、国民がアルコール度数の高いものに簡単にアクセスできないようにし、国民の健康を守るというわけです。

 ところが日本では、ウイスキーや日本酒、ワインよりも度数の低いビールの税率が一番高いという不思議な状況が長く続いてきました。

 そこで酒類メーカーは、麦芽を減らして酒税が安くなる「発泡酒」を生み出したのですが、国税庁が発泡酒の税率を上げたため、さらに麦芽の少ない「新ジャンル」商品を開発しました。それも税率が上がることになったので、メーカーはストロング系チューハイに注力するようになってしまったのでしょう。

 もちろん、アルコールを違法薬物として規制せよというわけではありません。私自身もお酒は好きですし、長く親しまれてきた日本酒やワインなどは、ひとつの文化でもある。

 しかしストロング系チューハイは、アルコールの良くないところだけを集めて、誰でも簡単に飲めるようにした「薬物」といっても過言ではない。何らかの対策が必要だと思います。

 実は、アルコールと並んで、もう一つ簡単に手に入る薬物に、カフェインがあります。最近、カフェインの錠剤や、カフェインが含まれる市販のせきどめ薬の依存症になる若者が増えているのですが、その入口になっているのが、コンビニや自販機で売られている「エナジードリンク」です。

 アルコール同様、カフェイン自体がいけないわけではありません。大人だったら、眠気覚ましにコーヒーを飲むことは普通でしょう。しかし中学受験の塾に通う子どもに、親がエナジードリンクを差し入れるというのは、明らかにおかしい。

“日本は薬物にクリーンな国”は嘘
 身体がカフェインに慣れてしまうと、より強力な効果を得ようとカフェイン錠剤を求めはじめます。エナジードリンクが自販機で売られるようになった2013年以降、カフェインの過剰摂取で救急搬送される患者が明らかに増えています。

 また、国の医療費抑制策により、これまで処方箋が必要だった薬が市販薬として売られるようになりましたが、鎮痛剤なども処方薬にはカフェインが入っていないのに、なぜか市販薬になると添加されるようになる。そうした薬をドラッグストアや通販で大量に買う若者もいます。

 カフェインの過剰摂取は、動悸などパニック発作に近い症状を引き起こしますし、深刻になると致死性の不整脈になる。違法薬物にするわけにはいきませんが、すくなくとも購入に際して年齢制限は設けたほうがいいでしょう。

 違法薬物を使用した芸能人へのバッシングが凄まじいように、日本は薬物にクリーンな国というイメージがありますが、それは嘘です。たしかに日本は欧米諸国に比べて違法薬物の依存症患者は少ないのですが、遺伝的にアルコールに弱い人が欧米よりずっと多いにもかかわらず、欧米並みにアルコール依存症患者は多い。

 日本人は遵法精神に富んでいるから、違法な薬物には手を出さないけれど、大人なら非正規雇用や長時間労働、子どもも受験といったストレスにさらされていて、酒やカフェインの力を借りずにはいられなくなっているのです。ストロング系チューハイを「飲む福祉」「貧者の麻薬」と呼ぶ若者もいます。

 コンビニにストロング系チューハイがずらりと並んでいる棚があり、別の棚にはエナジードリンクが並んでいるという光景は、やはり異常だと思います。

「ダメ。ゼッタイ。」に代表されるような違法薬物に関する啓発活動にとどまらず、アルコールやカフェインなども含めた薬物に関する健康教育を、子どものうちから行うことが必要ではないでしょうか。
posted by かーくん at 07:19| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする