そのきっかけは何だったのか。小林が振り返る。
「1年を締めくくる大きなお祭りとして楽しんでいただけたらと、おまけの精神で衣装を派手にしたのが始まりです。小林幸子ならではのオリジナリティを大切にしつつ、スーパー歌舞伎やラスベガスのショーなどの世界観や技術を参考にしました」
製作期間は4か月。メカニックや特殊加工、ヘッドドレスなど、時には100人態勢で製作に臨み、NASA開発の特殊リフトで高さ8メートルまで上昇する「火の鳥」(第57回)や総重量3トン、高さ8.5メートルでNHKホールの天井の限界に挑んだ壮大な「メガ幸子」(第60回)など、記憶に残る名作は数知れない。
「『メガ幸子』はこれまでにはなかった“笑い”が生まれて、歴代で一番インパクトがあったと自負しています。高さ12メートルのフライングを採り入れた『冬の鳥』(第42回)では宙に浮いたまま両腕の羽も羽ばたかせたため発声する際にお腹に力が入らず、紅白に向けてスポーツジムで腹筋を鍛えました。高い所は大好きなので、本番のステージはとっても気持ちよかったですよ(笑い)」
◆カルーセル麻紀にレンタル!?
その緻密さと豪華さから製作費は億単位と噂されている。
「『メガ幸子』をベースに可動式ウイングにLEDパネルを装備して、独自の映像をハイテク技術で導入した『NEO幸子』(第66回)が最もゴージャス。歴代の衣装の最高額規模になりました。金額は内緒です」
気になるのは衣装の「その後」である。
「紅白の衣装は国内外での公演でも着ています。『メガ幸子』は台湾で人気の『マーズー』という女神様に似ているそうで、現地ではコンサートに行くと拝まれました。大トリを務めさせていただいた第55回ではその年に行なわれたアテネ五輪をモチーフにした衣装を用意していましたが、秋に故郷の新潟で地震があったため見送りに。年明けのNHK歌謡コンサートで、幻となった衣装を解禁しました」
1999年には、第44回でお披露目した「ペガサス」を友人のカルーセル麻紀に特別レンタル。
「2016年には、『キリン 氷結』のCMで共演した元AKB48の高橋みなみちゃんが『火の鳥』の巨大衣装を着ています」
出番を終えた衣装は現在、解体されて倉庫に眠っている。
「すべての衣装ではありませんが、千葉と平和島の倉庫に保管してあります。皆さんの笑顔を原動力に毎年続けてきた紅白の衣装が、いつしか私の代名詞となって大きく世界が広がる幸せなきっかけとなりました。電球がつかないなど時にはトラブルもありましたが、チーム幸子が一丸となって全力で作った衣装に悔いはありません。私にとってかけがえのない宝物です」
※週刊ポスト2019年12月20・27日号
ラベル:小林幸子 紅白歌合戦 豪華衣装